2007
現時点でもテレビはテレビ番組を見るためだけのものではない。レンタルビデオから借りてきたDVD、もしくは自分で購入したDVDやビデオを見たり、プレイステーションとつないでゲームを満喫している人も沢山いるだろう。インタラクティブなテレビの世界では、DVDやゲームソフトといったパッケージ化されたサービスを満喫するだけではなくなる。
読者の中には宅配ピザを電話で注文したことがある人は沢山いるだろう。おそらく、読者の中にはPCでのインターネット利用を通じて、宅配ピザを注文したことがある人もいるかもしれない。
インタラクティブなテレビの世界では、テレビで好きな時に“簡単なリモコン操作”でピザを注文することができるようになる。実は、英国のサテライトプラットフォームプロバイダーのBritish SKY Broadcasting(B SKY B)のSKY Digital上で宅配ピザを注文するのはすでに大人気サービスになっているのである。英国のDomino's Pizzaのテレビ上での注文は、すでにインターネットサイト経由の注文を超えているのである。
インタラクティブなテレビの世界ではテレビが新しい宅配とショッピングの場になるという可能性を見い出せる。すでにテレビショッピング経験者であったり、PCで楽天等インターネットショッピングサイトを利用した経験がある人ならテレビが新しいショッピングの場になるという概念は何も驚くことなくスムーズに理解できる概念かもしれない。
2)英国人気リアリティ番組のBIG BROTHER
インタラクティブなテレビの世界では、既存のテレビ番組は一体どう変わるのだろうか?
これも有名な事例で紹介しておこう。日本でも人気があったサバイバーという番組を皆さんは御存じであろうか。サバイバーとは無人島で素人の男女が毎週課題をクリアしながら共同生活をし、毎週投票で脱落者を1人ずつ決めていき、最後の残った1人が勝者となる番組である。
この手の素人の生活にフォーカスを当てた番組や素人を積極的に活用したバラエティ番組や報道番組のことを通称“リアリティTV(番組)”と呼ぶ。
英国で現在大人気のBIG BROTHERもかなりサバイバーに近いテイストを持つリアリティTVである。サバイバーでは素人の共同生活の舞台が無人島であったが、BIG BROTHERでは共同生活の舞台が複数の部屋を持つ一般的な住宅に変わったものと考えれば良いだろう。住宅の各スポットにはテレビカメラが仕込まれており、各部屋の生活を覗き見できるようになっている。
サバイバー同様に毎週、参加者全員が共同で取り組む課題が与えられ、脱落者が1人ずつ投票で決められ、最後まで残った1人が勝者であるのも同じコンセプトである。
BIG BROTHERが大人気になったのは、興味深い番組コンセプトに加えて、“番組の魅力
をさらに高めるインタラクティブな仕組み”が提供されたことが大きい。
視聴者は簡単なリモコン操作で
・毎週の脱落者を選ぶ投票に参加できる。
・マルチスクリーンメニュー:各部屋のビデオ映像を自由に選んで視聴できる。自由に映像を切り替えられる。
・参加者の詳細なプロフイールや前回までのストーリー概要を閲覧できる。
・番組に関するトリビアなクイズに参加できる。
といった様々なインタラクティブサービスが提供されたのである。
2007
テレビとは本質的にやすらぎと気軽さを与えてくれる娯楽の王様である。そこには緊張感やプレッシャーや不安などは大抵存在しない。比べるとPCは、極めて仕事や能動的な作業と関連づけやすいものである。
日本においては、PCはすでに世帯普及率が60%を超え、2台3台持っていることも珍しくないレベルまで急速に普及した。しかし、テレビの普及率は次元が違う。テレビはほとんどすべての家庭に普及しており、実際、大抵の家庭はテレビを2台3台所有している。あまりにもテレビは普及しているので、テレビ自体がない、全くテレビ番組を見ないという人を捜す方がはるかに難しい。
60%の普及率のPCによってでも、大抵の人は、既存のビジネスのあり方、個人の趣味娯楽、日常生活そのものが大きく変化してきたことを実感できるであろう。さて、それでは、現在恐ろしいほど日常生活に定着しているテレビに今後何か大きな変化が起きるとしたら、皆さんは、一体どう思うだろうか?
まさに今、現在、その大きな変化が起きようとしているのである。その大きな変化の正体とは、テレビがインタラクティブ(双方向)になるということである。
私たちが現在まで長い間、日常的に利用してきたテレビ、ステレオ、冷蔵庫など多くの「家電製品」と急速の普及を遂げた「PC」において最も大きく異なる特質は、高度なインタラクティブ性である。PCは高度なインタラクティブ性を有するがゆえに概してPCの前では、私たちは、高い関与が要求されることが多い。今までの家電製品では、利用者にPCのような高い関与や複雑な操作を要求することはほとんどなかった。
むしろ複雑な操作が要求される家電製品は出来損ないとさえ考えられている。大抵の家電製品は、誰にでも簡単に使えるということが重要視されてきた。
家電製品においては、私たちがテクノロジーに歩み寄るのではなく、テクノロジーが常に私たちに歩み寄ってきたのである。当然、テレビがどんなに高度化しようが、テレビを見るために何か特別な知識や技術が要求されることなどはほとんどない。
このような家電製品の王様であるテレビがまるでPCのようにインタラクティブに変化するとは一体どういうことなのだろうか?はたしてその変化は必然的なことなのだろうか?一体何がどのような順序で起こるのであろうか?
誰もが毎日、当たり前のように利用しているテレビが大きく変化することによって、視聴者のライフスタイルは一体どのように変わっていくのであろうか?視聴者はどの程度その変化を快く受け入れるのであろうか?
またビジネスという視点で見た時、テレビの変化の中で既存のビジネス構造がどのように変化し、新しくどのようなビジネス機会が生まれてくるのであろうか?
これらの多数の疑問点に答えていく前にまずは“準備体操”として、「テレビがインタラクティブに変化するとは一体どういうことなのか」を3つの分かりやすい具体的な事例を通じて話を進めていこうと思う。興味深い3つの事例を通じて今後のテレビに訪れる新しい変化の胎動と雰囲気に触れることができるだろう。